先日フレット交換の記事を投稿したRickenbackerの330ですが、ネックのベタつきが気になるということでネックのリフィニッシュもフレット交換と並行して行いました。
年代物のRickenbackerには塗装のベタつきは割とよくある症状で、ラッカー塗装の表面が劣化して軟化することで起こる症状です。
調べて見るとFREEDOM CUSTOM GUITAR RESEARCHさんのSP-P-f54というポリッシュで磨くときれいになるとの情報があったのでまずは試してみました。
磨いてみた感じは表面の軟化した塗装を溶かして除去しているような感触で、磨いた部分は艶が出てベタつきは軽くなりました。
ただし軟化しやすい塗装なのは変わらないので、一時的には効果がありますが、再発する可能性があります。
また、軟化している深度が場所によって違うため、広い面積だとムラが目立ちそうです。
ナチュラル塗装でも黄変しているため、塗装ムラは目立ちます。
お客様と相談の上、今回はしっかりメンテナンスしたいとのご希望でしたので、一度ネックの塗装を全て剥がして塗り直すことになりました。
ヘッド裏の塗装を剥がした写真です。
ネック部分と比べると色味がかなり違うのがわかります。
ナチュラル塗装とはいえ、ラッカーは経年変化でこれだけ色が濃く変化します。
今回はボディは塗り替えないため、違和感が出ないように色味を合わせて塗装する必要があります。
ボディ側に傷を付けないようにマスキングをして、ボディとの境目もキレイに塗装を剥がしていきます。
全体をキレイに剥がし終わりました。
ここから塗装作業に入りますが、ギターの塗装はなかなか特殊な工程で、塗装を吹く→乾かす→研磨するという工程を何度も何度も繰り返します。
今回のナチュラル塗装の場合、全部で13回塗装を吹きました。
色を付けたり、サンバーストのように色を重ねる場合はもっと工程が多くなります。
13回も塗装しても塗料のほとんどは研磨して削り落とすため、塗膜は薄く仕上がります。
なおかつ表面はツヤっとして強度のある仕上がりにするために必要な工程なのです。
木工家具職人をしている友人曰くギターの塗装工程は「狂気の塗装工程」らしいです。笑
塗装作業は時間と空気中の僅かなホコリとの戦いでもあるので、作業中の写真はありませんが、上の画像の塗装専用ブースで塗装を吹いていきます。
強力な換気能力と高い気密性を誇る塗装専用空間です。
一日に何層も塗り重ねると乾燥不良を起こすため、どうしても塗装作業は日数がかかります。
ラッカー塗装の場合、最短でも2~3週間はお預かりすることになります。
塗装を全て吹き終わって十分に乾燥させました。
このままでもまぁまぁキレイに見えますが、さらにここから研磨して艶出しを行います。
艶出しまで行うと頭上にある2本の蛍光灯がハッキリと映り込むまでキレイに仕上がりました。
研磨や艶出し作業は地味で見栄えがしないため写真では紹介できませんが、時間がかかり、集中力も必要なため大変な作業です。
ここで万が一、塗装が一部でも剥がれるとここまでの2~3週間の作業が水の泡になります。
目では見えない透明な塗装を光の反射や指先の感覚を頼りに出来るだけ薄く仕上がるように削るのは何度やっても胃の痛くなる作業です。
ボディとも色味が合って違和感なく仕上がりました。
ラッカー塗装のため、これからも保管方法やメンテナンスには気をつけなくてはなりませんが、ベタつきは解消され、簡単には再発しないはずです。
塗装は直接手に触れ、もっとも目につきやすいギターの重要な要素です。
傷の修正や色の塗替え、手触りを変えたり、オリジナリティを出すことができます。
塗装に関するお悩みや相談がありましたらお気軽にご相談ください。