【作業事例】Rickenbacker 330 フレット交換

長年弾き込まれたRickenbacker 330をメンテナンスしたいとの事でお預かりしました。
フレットが摩耗して低くなり、すり合わせでは対処できない状態だったのでフレットを交換することとなりました。

フレット抜き

まずは摩耗して低くなったフレットを抜いていきます。
この時、一気に引き抜いてしまうとフレットが食い込んでいる指板が欠けてしまうため、端から慎重に少しずつ喰切を滑り込ませてフレットを浮かせていきます。

フレット抜き後

無事に全てのフレットを抜き終わりました。
Rickenbackerの特徴の一つとして、ローズウッド系の指板材が使用されていますが指板面に塗装が施されています。
一般的にはメイプル指板は塗装あり、ローズウッド指板は塗装なしです。
塗装されていることでRickenbacker独特の演奏性やデザイン感が演出されています。
作業的にフレットを抜いた後は指板面を研磨してRや反りを整える必要があるため、必然的に指板面の再塗装をすることになります。

ところでRickenbackerの指板材って何なんでしょうね?
オフィシャルサイトではRosewoodと表記されているようですが、木目の感じや香りからするとパーフェローっぽい印象を感じました。
調べてみるとブビンガじゃないかという意見もあるようですし、なかなか判断が難しいです。
ちなみにパーフェローはボリビアンローズウッド、ブビンガはアフリカンローズウッドという別名(商品名)もあるため、Rosewood表記は誤りではありません。

指板修正後

指板面の研磨が終わりました。
今回はフレット交換と併せてネック全体のリフィニッシュも行うため、ヘッドやネック裏の塗装も剥がしてあります。
ボディをしっかりとマスキングして、フレットを打つ前に塗装の下塗りを行います。
そのあたりの塗装作業はまた別の記事にしたいと思います。

フレット曲げ

フレットは打つ前に指板に合わせて弧を描くようにRを付けます。
正確には指板より少し小さいRで曲げて、打った時に外に広がることで抜けにくくします。

フレット打ちの作業ですが、やり方が2種類あります。
「打つ」のか「押し込む」のかです。
古来はハンマーで打ち込んでいましたが、近年の工場ではプレスを使って押し込んでいる所が多いです。
それぞれ長短あるのでFROGSでは両方の方法を組み合わせています。

まずは木槌を使って両端を打ち込みます。
フレットのほうが指板よりRが小さいため、中央が浮いた状態で固定されます。

プレス

次に指板Rに合わせたブロックを使ってプレスして押し込みます。
プレスすることで指板やフレットが凹んだり、叩く振動で別の場所にダメージを与えなくて済みます。

ハンマー

指板と同じRのブロックを使ったプレスだけだと木材のしなりや弾力でわずかにフレットが戻ってしまうため、最後は小さいハンマーを使って最小限の力で打ち込み、フレットと指板を密着させます。

隙間

こうすることでギターへのダメージを極力避けて、しっかりと隙間なくフレットを打ち込んでいます。
普通のやり方より工程は多くなりますが、作業後も長く使える楽器にするためには必要な作業です。

フレットの浮きは目視では気づかない軽微なものでも、音への影響があります。
特定のフレットだけビビったり、音がこもる、音の伸びが悪いなどの原因になります。

補強

仕上げに極微量の接着剤を指板に染み込ませて、フレットのかえしがかかっている部分を補強します。
あくまで補強にとどめて、接着はしません。
いつになるかわかりませんが、次回のフレット交換時のことも考えて作業するのはリペアマンにとって大切なことです。

塗装後

フレットサイドを整形して、塗装を吹きました。
フレットサイドも演奏時に手に引っかからないように丁寧に行ったのですが、写真を撮ってなかったです。。
塗装作業はまた後日記事にします。

すり合わせ

塗装面を傷つけないようにしっかりとマスキングをして、すり合わせを行います。
フレット打ちを丁寧に行っていれば、すり合わせで削る量は微量で済むため、フレットの寿命も長くなります。
手を抜かない作業の積み重ねだけが、ベストな完成形に繋がります。

完成

外していたパーツ類を取り付けて、調整をしたら作業完了です。
低く平らになっていたフレットがしっかりと丸みをつけれる高さに復活しています。
音抜けが向上して、音程感も安定し、弾きやすくなりました。
生まれ変わったかのような状態で、ここからまだまだ長く楽しめる楽器になりました。

フレットは消耗品のため、楽器を使い続けていればフレット交換はいつか必要になる作業です。
頻繁に必要になる作業ではありませんが、逆に数年に一回のことなのでその仕上がりは重要になります。
仕上がりにご満足いただける自信があります。
ぜひご相談下さい。

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