ボディTOPが膨らみ、弦高が高いためメンテナンスをして欲しいとのことでお預かりしました。
FURCHのG23-SFCTというアコースティックギターです。
状態を確認してみるとお客様は気づいていなかった問題が発覚しました。
ブリッジが剥がれてエンド側が浮いてしまっています。
厚みのあるショップカードが簡単に入り込むほど隙間が空いていました。
ブリッジが浮いているため、支点が高くなり、弦高が高くなってしまったようです。
ブリッジの浮きはアコースティックギターではよく診られる症状です。
浮いたままでは弦のテンションが狭い範囲に集中してかかるため、ボディの変形に繋がります。
気がついたらすぐに弦を緩めて、修理に出す必要があります。
自分で接着剤を流し込んで接着しようとするのは辞めたほうがいいです。
接着剤の層が残っているところに新たに接着剤を塗ってもくっつきません。
それどころかボディTOPやボディ内部に接着剤がはみ出て大変なことになる可能性が高いです。
ブリッジ浮きの修理ではブリッジを一度剥がして接着面を整えます。
下準備としてラバーヒーターを使って熱を加えて、接着剤を弱めます。
十分に温まったらパレットナイフを隙間に滑り込ませてブリッジを少しずつ剥がしていきます。
ボディTOPは塗装が施されていますが、塗装面では接着力が弱まるため、ブリッジとの接着面は塗装が剥がされています。
つまり、ブリッジの木部とボディの木部が直接触れ合って接着されています。
そのため、勢いよく力任せに剥がすとブリッジにボディTOPの繊維が付いてきてしまい、ブリッジ下以外の部分までえぐり取られてしまうため、慎重に剥がしていきます。
ボディ側のダメージを最小限に抑えて無事に剥がすことが出来ました。
ブリッジピン穴の両サイドに接着時のズレ防止用治具が刺さっているのが外見からでは解らずなかなか苦戦しました。
ブリッジの輪郭の1~2mm内側に線があるのがわかるでしょうか?
この線の形にボディ側は塗装が剥がされていました。
ブリッジの横にブリッジが付いていた部分の痕があります。
最近のギターでよく取られている手法なのですが、ブリッジよりひと回り小さく塗装が剥がされていました。
なぜこうなっているかというと、ブリッジの形ピッタリに塗装を剥がすより製造するのが楽だからです。
ブリッジの形ピッタリに塗装を剥がすのは難しく、接着時の僅かなズレも目立つようになるので手間がかかるのです。
しかし、この方法で接着しようとすると塗装の厚み分、ブリッジが浮く部分があるため、接着面積が少なくなります。
もう一度剥がしたブリッジを見てみると塗装の厚み分の段差を埋めるためにブリッジの周囲がわずかに彫り込まれています。
しかしそれでも外周付近はほとんど接着出来ていなかったのがわかると思います。
当工房では修理をする際にはキッチリとブリッジの形に塗装を剥がし直して、接着面をできるだけ広くするようにします。
急に工程が進んで接着風景です。
ここまでにブリッジの接着面を整えて、ボディの塗装をブリッジの形ピッタリに切り抜いて、剥がして、接着剤がはみ出でもいいようにマスキングして等の工程が有りましたが写真を撮っていませんでした。。。
作業がノッてくるとついつい写真を撮らずにドンドン作業を進めてしまいます。
以前まではサウンドホールから懐の深いC型クランプを3個ほど突っ込んでブリッジを上下から挟み込んで圧着していました。
しかしそれなりに重さのある金属製のクランプの重量がボディTOPにかかるのが気になったため、軽量の治具に変更しました。
中央の二本のビスはそれぞれ1弦と6弦のブリッジピン穴を通ってボディ内部のベースプレートにかかっています。
上部の蝶ナットを締めればしっかりと圧着できる構造になっています。
このまま24時間~48時間ほど置いてブリッジの接着は完了です。
次にネックの順反りを修正するために熱矯正にかけるのですが、そちらはまた次回の記事にさせて頂きます。
アコーズティックギターのブリッジ剥がれは接着剤が弱まる条件である高温多湿になる夏に起こりやすくなります。
これからの季節、気にかけてみてはいかがでしょう。