1930年代の人気機種L-00の流れを汲むコンパクトボディのアコースティックギター「BLUESKING」。
ライブハウスでの事故で倒された際にネックが折れてしまったとのことでお預かりいたしました。
筆記体ロゴのスモールヘッドが渋いです。
ヘッドの付け根部分が割れてしまっています。
折れてからそれほど時間が経っていないため、断面は比較的きれいなようです。
ロッドカバーを外すとトップ側まで割れが到達しているのが確認できます。
通常ネック折れの修理では接着後、割れに対して直角に溝を彫って補強材を埋め込むことをオススメしています。
しかし今回は次のライブが迫っているというお客様の事情があったので、接着のみでの修理を試みる事となりました。
そもそもなぜ補強材を入れる必要があるのかというと、割れた木材の断面をピッタリと密着させることが困難で、隙間のある接着では弦の張力に耐える十分な強度を確保することができないという問題があるからです。
割れたときの衝撃で欠けた木材や塗装の破片などの異物が割れの隙間に入りこんで密着を妨げます。
また木材は繊維の集合体のような物のため、割れた断面には無数の繊維があります。
折れたり曲がったりしている繊維も密着の妨げになります。
これらを上手く除去してやらないと十分な強度を持たせて接着することが出来ないのです。
1ミリ程度の割れの隙間からカッターの刃やパレットナイフを入れて接着面を整えます。
何度も仮止めを繰り返しながら隙間なく接着できるかを確かめます。
どのように力を加えるのかも重要で、当て木の当て方や形状、クランプの位置などを試行錯誤して決めていきます。
隙間なく固定できるようになったら、隙間に接着剤を塗り込んで接着します。
接着剤は粘度があるため、隙間に流し込もうとしても割れの浅い部分で止まってしまうため、しっかりと奥まで塗り込む必要があります。
今回は幸い(?)トップ側まで割れが到達していたため、奥まで接着剤が到達していることが目視で確認することができました。
強度を得るためにはとにかく接着の面積を多くすることが重要です。
塗装の割れはありますが、キレイに段差なく接着することができました。
弦を張っても隙間が出来ることはありません。
木材用の接着剤は水分や熱が加わると緩くなる特性があるため、弦を張ったまま暑いところに置いておくと接着が外れてしまう恐れがあるので今後も注意は必要ではありますが、無事に修理が完了しました。
ヘッド角付きのギターではネック折れのトラブルは非常に多いトラブルだと思います。
誤った修理で使い物にならなくなったギターも数多く見てきました。
適切に修理することで甦らせることが可能です。
断面が湿気を吸ってしまうと変形して修理が困難になります。
折れてしまったらすぐにご相談下さいますようお願いいたします。
ちなみにくれぐれもご自身でホームセンターで売っている木工用ボンドや瞬間接着剤などを流し込んでみたり、ネジ止めしてみたりはお控え下さい。
弦を張ったらヘッドが飛ぶ等のさらなる事故につながって危険です。